時知らずの花

始発待ちアンダーグラウンド ムラタ・ヒナギクさんの独り言

帰り道

 

 

 

匂いは記憶を蘇らせる。

最寄りのコンビニまでは徒歩10分、最寄りの駅までは徒歩2時間。そんな田舎道は金木犀がよく植えてある。フワリと香る甘く優しく、苦しくなる匂いは僕の香水とはまた違う本物の匂い。


数年前の学校へ歩く道を思い出す。その日も金木犀が咲いていた。家にいるほうが怖くて何故か学校に行った。学校の中の記憶は曖昧だが、歩いていた道の色が鮮明に脳裏に焼き付いている。秋は一瞬で過ぎ去るのに、忘れられない季節。

 


弾けないギターを弾く度に、なんで教わらなかったんだろうと酷く後悔ばかりする。教わる年齢なんていくつからでもよかったのに。聴く分には全く何も感じないが弾くとどうもダメみたいで、よくため息が溢れだす。

あぁ、どうやったら出来るかな、どうやったら歌えるかな、どうやったら届くかな。シャンプーする時左指が熱いよ。短い爪が更に無くなってるよ。可愛くない手が憎いよ。もっと上手く弾けたらな。もっと上手く弾けたら、何か変わるだろうか。


まだ諦めてない、全ての夢を。僕はアナタの分も、そして母の分も、勝手に全て叶えるつもりで生きている。たまに消えたく逃げたくなる、でも僕の物語を終わりにするには全然まだ早いから、ごめん、まだ会いに行けないの。だから夢の中で待っててくれたら嬉しい。


今日はライブがあるよ、地下のライブハウスだけどどうにか聞きに来てよ。歌はアナタよりうまい自信があるよ。あんまり聞いたことないけど。もっと聞きたかったら誕生日の次の日も来てよ。もっともっと長く歌うから、もっともっと伝えられるから。


そういえば今年のはじめにうさぎのオマージュをしました、あれから36年ですって。僕もいつか出なくちゃな仮装大賞、何で参戦しようかなぁ、何か案あったら教えてよ。

小学生の頃、熊本から帰るときかな、空港で飛行機を待っている時2人で見た仮装大賞をよく思い出します。謎のホームセンターで一等賞を当て、ギブソンを迎え入れたあの冬の帰り道。お前は持ってるなぁと誇らしげな顔をしたアナタ。最後に過ごした2人の時間。だったっけかな、あぁ、忘れたくないよ、忘れたくないのになぁ。


僕、もっと強くなるね、だから見守っててね、どっか行っちゃわないでね。下手くそだなぁって僕のギターを聴きながら笑ってよ。それでいいからさ。あ、ごめんPS5は手に入れてないのでSwitchで我慢してください。ドラえもんも一緒に観ようよ。何が一番好きだった?僕はやっぱり銀河超特急。あぁ、ドラえもん、夢をかなえて。ドラえもん、願いが叶うならもう一度。なんてね。


なんか上手に書けなかったやごめんね、まぁそんな時もあるよね。あぁ、母も妹も元気だし僕も元気ですのでそこはご安心ください。

じゃあ、また来年手紙書きます。夢であいましょう

 


親愛なる父へ 娘より 2023.10.14